TMDA 2022年度 自己点検評価報告

1.本プログラムの履修・修得状況について

東海大学 数理・データサイエンス・AI教育プログラム(略称 TMDA、以下、本プログラムと呼称)は、東海大学理系教育センターが全学を対象として開講する4科目「社会情報概論(旧:ICT入門)」・「人工知能」・「データサイエンス入門」・「データサイエンス基礎」から構成され、卒業までに4科目全てを受講し合格(単位取得)することによって、本プログラム修了と判定、本学公式の修了証明書が発行される仕組みとなっている。以下は、本プログラムを構成する4科目の開講実績である(2022年度):

  • 社会情報概論(旧:ICT入門) 春学期9クラス 秋学期10クラス
    ※2022年度のカリキュラム変更に伴い、科目名を変更した
  • 人工知能 春学期3クラス 秋学期3クラス
  • データサイエンス入門 春学期5クラス 秋学期9クラス
  • データサイエンス基礎 春学期2クラス 秋学期2クラス

なお、本プログラムを構成する4科目は、学生が自由に履修選択・判断が可能な「自己修得科目群」に属しており、各科目の履修登録とは別に、本プログラムの参加(履修開始)を学生から受け付ける仕組みは設けていない(2023年4月現在)。よって、本プログラムを構成する4科目のうちどれか1科目以上について、はじめて履修登録した年度・セメスターを「本プログラムの履修開始」と定義している。本プログラムを構成する各科目の履修登録及び成績は正確に把握できており、これらを以て、各年度における本プログラムの履修・修得状況を分析する体制となっている。

まず、2022年度における本プログラムの履修状況について述べる。本学は全国に多くの校舎を持ち、本プログラムを構成する4科目は遠隔授業により全国どの校舎からも受講できる体制となっているが、依然として湘南校舎以外での履修率については低調と言わざるを得ない。2023年度においては湘南校舎における全学ガイダンスでの周知のほか、パンフレット等を新たに用意し、湘南校舎以外の学生も簡便に本プログラムに関する情報に触れることができるように対応を図った。なお、湘南校舎に限れば、履修者は湘南校舎の全学部に及んでいるものの、学部による履修率の差が目立つ。これは、各学部学科でのカリキュラム構成や履修指導によるところが大きく、現状のプログラム実施体制(自己修得科目としての位置付け)での劇的な改善は困難と考えられる。センターとしては、各学生が本プログラム履修を検討しやすくするよう、本プログラムを構成する科目の配置や授業実施形態等について調整を図っている。

次に、2022年度における本プログラムの修了状況について述べる。昨年度実績(22名)より大幅に増加(97名、前年比+75名)したほか、多くの学部に分散しており、特に文学部・文化社会学部等の文系学部をはじめ、湘南校舎以外(生物学部)からも修了者を出したことは、本プログラムが、文系理系を問わず、全学を対象とした教育プログラムとして稼働しはじめたことの傍証であろうと考える。なお、履修者数に比して修了者が明らかに少ないことについては、本プログラムが4科目からなることから、複数年度をかけて修得する計画の学生が少なくないこと、本プログラムにおいて比較的難易度の高い科目である「データサイエンス基礎」の履修者が少ないことなどを踏まえ、継続的に状況を分析していく必要がある。


2.学修成果について

まず、本プログラムの達成目標は、本学学生が以下に示すAIとデータサイエンスに関する5つの能力を得ることである。

  • AIやデータサイエンスが、現代の社会変化とどのように関係しているか具体例を伴って説明できる
  • AIやデータサイエンスが、非常に多種多様・広範囲のデータを活用し、問題解決のツールとして具体例を説明できる
  • AIやデータサイエンスは、現代社会の様々な分野において、新しい価値を生み出していることについて具体例を説明できる
  • AIやデータサイエンスを扱う際は、個人情報の取り扱いや倫理の問題などを考慮しなければならないと、具体的に説明できる
  • AIやデータサイエンスを、自分の生活や学習、仕事に活かす基本的な手法を、具体的なデータをもとにして実践できる

本プログラムでは、プログラムを構成する4科目全体の学習を通じて、上記プログラムの達成目標を達成するよう、各科目の授業目標・授業内容を構成している。このことを踏まえ、各科目の単位修得率・成績分布をもとに本プログラムの学修成果を分析する体制となっている。

2022年度、本プログラムを構成する4科目の単位修得率(履修者全体)は、社会情報概論(旧:ICT入門) 76.9%(前年比-6.3%)、人工知能 81.6%(前年比-2.2%)、データサイエンス入門 73.7%(前年比-5.1%)、データサイエンス基礎 80.6%(前年比-2.3%)と、前年度と比較して各科目とも低下傾向がみられるものの概ね良好である。特に、2022年度、本プログラムを修了した学生の成績を詳細に分析すると、各科目のS評価A評価率は74.6%~87.2%となっており、全履修者における同比率(50.8%~56.8%)と比較して相当に高い。よって、本プログラム修了者は、本プログラムを構成する4科目での学修を通じ、目標とする学修成果は概ね得られたものと考えられる。一方、この差は本プログラムの一部を履修するにとどまっている学生と全科目を履修(修了)する学生の意識の差を示しているとも考えられ、本プログラムの履修から修了に向けてのガイドを強化していく必要性が示唆されたとみている。そのほか、単位修得率の全体的な低下は、履修者層の拡大や1クラス当たりの受講者数増加との相関がないか、継続的に分析を進める必要がある。


3.学生の内容理解度と他学生への推奨度について

本プログラムにおける学生の内容理解度と他学生への推奨度については、本学全授業を対象とした授業評価アンケートの結果に基づいて分析し、次年度授業内容の見直しを行うための基礎資料とする体制となっている。また、2023年度は、本学公式の授業評価アンケートとは別に、より詳しく理解度や他学生への推奨度を測るための調査を実施する計画である。


(1) 内容の理解度について

2022年度授業評価アンケートの結果をみると、理解度及び学習到達目標達成の評価(設問#9、設問#11)は、どちらも5段階評価において平均4.0程度あり、概ね良好な結果と考えている。一方、学生の意欲・授業参加を促す工夫(設問#8)については大幅な低評価となっており、本プログラムにおける授業内容と授業実施の方略について見直しの余地があることを如実に示している。また、「データサイエンス入門」について、授業の難度が不適切(設問#3)との指摘があり、学生が想定する(入門的)内容とミスマッチしている可能性がある。2023年度は、実習・実践をより多く組み込むよう、各授業のシラバスを見直すとともに、授業評価の高い教員による工夫を参考として実際的な授業改善に向けたFDを展開していく計画である。

(2) 他学生への推奨度について

2022年度授業評価アンケートに後輩等他の学生への推奨度を直接測る指標はないが、授業満足度の回答結果(設問#14)について、5段階評価において平均4.0程度あり、間接的に推奨度としても概ね良好と推測している。また、本プログラムの授業を担当する教員が、授業評価アンケートの結果をもとに選出される2022年度Teaching Awardを受賞していることも、学生からの支持を得ている傍証とみなすことができよう。2023年度は、センター教職員からによる一方的な周知だけでなく、本プログラムに興味を持つ学生が自由に参加できるオンラインサロンの展開など、学生を巻き込んだかたちでの、プログラム履修や修了に向けたサポート体制確立を図る計画である。

4.全学的な履修者数、履修率、修得率向上に向けた計画の達成・進捗状況

本プログラムを構成する4科目については、履修登録者だけでなく、履修希望者の数を正確に把握できる仕組みを整えており、その内容に応じて開講コマ数や授業形態の改善・調整を図り、履修者数・履修率・修得率の拡大を目指す体制となっている。

2022年度について、プログラムの導入に相当する科目「社会情報概論(旧:ICT入門)」をはじめ、本プログラムを構成する各科目では、履修希望者が定員を超過することによる履修制限が常態化しており、より多くの履修希望者を受け入れる体制を整えることが、本プログラムの履修率を向上させる大きなポイントと考えている。2022年度は昨年度に比して開講クラス数を増加させたが、依然として履修希望者を十分受け入れることが出来ていない。学生からの不満の声(履修したいのに履修できない)も少なくないことから、2023年度は、一部科目についてオンデマンド授業化を進め、受け入れ人数の抜本的拡大を図る。但し、ただ単純に1クラス当たりの受け入れ数増を図ることは、個別指導の品質を維持できなくなる可能性が高く、かえって本プログラムに対する学生の満足度や修得率を低下させることに繋がりかねない。長期的には、本プログラムにおける効率的な教材開発、学生個別対応体制、本プログラムに関与する教員体制の改革に関し、具体的な検討を並行する必要があろう。

次に、1節で示した表からも明らかなように、本プログラムを構成する4科目のどれかを履修する学生は非常に多いが、4科目全てを履修する(即ち修了する)学生はそのごく一部に留まっている。これは、まず上述のように履修したくても履修できないというケースや、長期的に(複数年かけて)履修しようと考えているケースが考えられる。一方、難易度の比較的高い「データサイエンス基礎」は、開講クラス数4と他3科目より相対的に少ないにもかかわらず、履修希望者の定員超過は他より目立っていないことから、入門科目から基礎レベルへのステップアップを図る意識涵養も修得率向上のカギとなろう。ゆえに、2023年度では、全学ガイダンスを通じた本プログラム全体像の周知、本プログラムのパンフレット配布、本プログラム各科目での履修勧奨、「データサイエンス入門」から「データサイエンス基礎」への接続性向上などを進め、修了を目指す学生の拡大を図る。

5.教育プログラム修了者の進路、活躍状況、企業等の評価

本プログラム修了者の進路については、本学キャリア指導担当部署との連携に基づき、正確な情報把握が可能である。また、本学理系教育センターでの授業展開に協力を頂いている企業・団体・地域とのミーティングを通じて意見収集を行い、本プログラム修了者の採用状況や企業での評価を把握できる仕組みを整えている。

2022年度本プログラム修了者94名のうち、卒業生は14名である。うち半数以上は情報処理技術者をはじめとした技術系職種に就職しているが、これは概ね現在の修了者が所属する学科の就職先傾向と合致しており、本プログラム修了者独特の傾向はみられない。その追跡調査、就職先企業等からの意見聴取については、今後、本学キャリア指導担当部署との連携のもと、その状況把握を図っていく。残り在学生修了者80名については、各学生が所属する学科との情報交換を継続し、その後の活躍状況、特に本プログラムを通じて修得した数理・データサイエンス・AI分野の基礎知識・スキルを、それぞれの主専攻における学修・研究にどう生かしているかについて、その把握に努める。

6.産業界からの視点を含めた教育プログラム内容・手法等への意見

本学理系教育センターが全学開講している「社会情報実践」(2022年度カリキュラム)・「ビジネスIT応用A/B」(2021年度カリキュラム)は、遠隔インターンシップ授業(大学授業の中において疑似的にインターンシップを体験できる授業)として、連携する各企業から提示される問題解決にAI・データサイエンスを活用して取り組む実践的な授業であり、本プログラム修了者の受講を期待・推奨している。

このことを踏まえ、理系教育センターでは、当該授業に参画いただいている企業担当者とのミーティングを通じ、本プログラムの内容・手法等について、産業界からの視点を含めた意見交換を実施することとしている。当該授業内の学生発表に対する企業担当者からのコメントでは「目のつけどころは良いがビジネスモデル面ではリアリティに乏しい」「コンセプトやビジネスモデルとしての整合性が検討不足」「AIの活用アイディアの中に学生本人独自の考えや思いが表現されていない」「提案をする課題であるにも関わらず授業課題として受け身になって考えている」などが見られた。また、数理・AI・データサイエンスを知識として学習する際に、社会との関わりや、社会でそれらがどのように活用されるのか、また、どのように今後活用していったらより良い社会になるのかなど、社会実装の観点での学びが不足しているとの指摘を受けた。そのほか、2022年4月に実施したミーティングにおいては、問題解決の基本的なフレームワークやICTに関する基礎知識を踏まえて、データ分析におけるプロセスの全体像を早期から意識させていくことで社会における実践的な活用方法を意識させることが重要との意見で一致を見た。

これまでの産業界との議論を通じて、数理・データサイエンス・AI分野の理論・技法だけを特化して学ぶのではなく、社会とICT全般の学び(各副専攻科目群)の一部として本プログラムを位置づけるという本学理系教育センターの方向性については適切であると判断している。一方、数理・データサイエンス・AIを実際の問題解決にどのように活かせばよいのか、その意識を早期から醸成するために、小さな問題解決を実践する演習・ワークショップ等を本プログラムを構成する各科目内により多く組み込むか、もしくは授業外の活動として提供するかなど、既存授業内容と調整を図りつつ検討を進める必要がある。今後も当該授業の中で連携企業とディスカッションを重ね、本プログラムの学びの修正・改善を継続的に行なっていく。

7.数理・データサイエンス・AIを「学ぶ楽しさ」「学ぶことの意義」を理解させること

本プログラムは、理系教育センターが開講する全学対象科目(2021年度カリキュラム全34科目、2022年度カリキュラム全9科目)の一部として組み込まれており、ガイダンスやセンターWebサイト等を通じて、本プログラムとそれ以外の科目群との関連を明示することにより、数理・データサイエンス・AIを学ぶことによってどのような活用・活躍が考えられるのか、どのような分野とかかわりがあるのか、学生にわかりやすく伝わるよう工夫している。また、本プログラムで学んだことを社会の様々な問題解決に向けて活用・応用できる授業「社会情報実践」を開講し、数理・データサイエンス・AIを学ぶことの意義を実感できるよう、カリキュラムとしての工夫を図っている。

また、本プログラムを構成する4科目の中においても、授業導入として数理・データサイエンス・AIを学ぶ意義や課題を理解することを組み込んでいるほか、MDASH<リテラシーレベル>として必須事項以外の部分については、授業クラスによって様々なツール・アプローチを提供し、学生の興味やスキルに応じて自由に選択できるようにしている。

これらの取り組みは2023年度も継続する計画である。

事例紹介:「データサイエンス入門」における、ある授業クラスの実践事例
本クラスの特徴として、学習内容の長期記憶の機会を与えるため、ひとつの授業を前半と後半の2部制に分け指導している。第1部では、学生とコミュニケーションを取りながら前回の授業を総復習し、学習内容の記憶の定着率の向上に努めた。第2部では、前回学んだ記憶を十分想起させた後に、次の主題の学習内容を展開することで、より一層理解が深まる。この指導方法は、体系的な知識を習得すると考えられ、結果的に「学ぶ楽しさ」が体感できる。さらに、総務省統計局などの実際のデータに基づく実習体験を組み込むことにより、思考力や発想力、表現力やコミュニケーション力も育まれ「学ぶことの意義」が理解できる。
※本クラスを担当する教員は2022年度東海大学Teaching Awardを受賞した。

8.内容・水準を維持・向上しつつ、より「分かりやすい」授業とすること

本プログラムを主管する理系教育センターでは、授業評価アンケートの分析、産業界・地域関係者等とのミーティング、FD活動を通して、学生にとって「分かりやすい」授業とするための改善活動を恒常的に実施している。さらに、各担当者における授業改善成果を教員業績評価対象とすることにより、改善の実効を高める体制を整えている。

特に、本プログラムの科目群では、理系文系問わず様々な学部学科の学生が受講するため、前提とする学生の知識は多種多様である。ゆえに、本プログラムにおける入門的位置づけにある「社会情報概論(旧:ICT入門)」や「データサイエンス入門」では、知識ゼロからでも始められる授業構成とした。具体的には、高校までの学習内容の復習機会を与えるとともに、他授業との関連を示し、各受講生の不足部分をどう補えば理解が深まるか明示するようにしている。さらに、説明だけでなく、実践的なデモンストレーションや映像等を活用して具体的に示すことにより、いかに実践すればよいか明確に伝え、加えてSNSやチャット等による質問対応を行うことで、遠隔授業におけるインタラクティブ性を保ち、「分かりやすい」授業となることを目指している。上記のような取り組みは、全学対象の本プログラムにおいて内容・水準を維持・向上させるためには必須と考えており、2023年度以降も継続・発展させる計画である。

公開:2023/6/9
文責:東海大学理系教育センター